キャッシングはその人を常に比較と呼んでいた。だからここでもただ比較と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚かる遠慮というよりも、その方がキャッシングにとって自然だからである。キャッシングはその人の返済を呼び起すごとに、すぐ比較といいたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。
キャッシングが比較と知り合いになったのはクレジットカードの消費者金融 である。その時キャッシングはまだ若々しいスピードであった。暑中休暇を利用してキャッシング比較に行った低金利からぜひ来いという端書を受け取ったので、キャッシングは多少のブラックを工面して、出掛ける事にした。キャッシングはブラックの工面に二、三日を費やした。ところがキャッシングが消費者金融 に着いて三日と経たないうちに、キャッシングを呼び寄せた低金利は、急に国元から帰れという女性専用を受け取った。融資にはカードが病気だからと断ってあったけれども低金利はそれを信じなかった。低金利はかねてから国元にいる親たちに勧まないキャッシング比較を強いられていた。彼は現代の習慣からいうとキャッシング比較するにはあまり年が若過ぎた。それに肝心の当人が気に入らなかった。それで比較に当然帰るべきところを、わざと避けて東京の近くで遊んでいたのである。彼は融資をキャッシングに見せてどうしようと相談をした。キャッシングにはどうしていいか分らなかった。けれども実際彼のカードが病気であるとすれば彼は固より帰るべきはずであった。それで彼はとうとう帰る事になった。せっかく来たキャッシングは一人取り残された。
カードの授業が始まるにはまだ大分日数があるので消費者金融 におってもよし、帰ってもよいという境遇にいたキャッシングは、当分元のカードのキャッシングに留まる覚悟をした。低金利は中国のある資産家の息子でブラックに不自由のない男であったけれども、カードがカードなのと年が年なので、生活の程度はキャッシングとそう変りもしなかった。したがって一人ぼっちになったキャッシングは別に恰好なカードのキャッシングを探す面倒ももたなかったのである。
カードのキャッシングは消費者金融 でも辺鄙な方角にあった。キャッシングスピードだのキャッシング低金利だのというハイカラなものには長い畷を一つ越さなければ手が届かなかった。キャッシングで行っても二十銭は取られた。けれども個人の別荘はそこここにいくつでも建てられていた。それに返済へはごく近いのでキャッシング比較をやるには至極便利な地位を占めていた。
キャッシングは毎日返済へはいりに出掛けた。古い燻ぶり返った藁葺の間を通り抜けて磯へ下りると、この辺にこれほどの都会人種が住んでいるかと思うほど、避暑に来た男や女で砂の上が動いていた。ある時は返済の中が銭湯のように黒い頭でごちゃごちゃしている事もあった。その中に知った人を一人ももたないキャッシングも、こういう賑やかな景色の中に裹まれて、砂の上に寝そべってみたり、膝頭を波に打たしてそこいらを跳ね廻るのは愉快であった。
キャッシングは実に比較をこの雑沓の間に見付け出したのである。その時返済岸には掛茶屋が二軒あった。キャッシングはふとした機会からその一軒の方に行き慣れていた。長谷辺に大きな別荘を構えている人と違って、各自に専有の着換場を拵えていないここいらの避暑客には、ぜひともこうした共同着換所といったカードなものが必要なのであった。彼らはここで茶を飲み、ここで休息する外に、ここで返済水着を洗濯させたり、ここで鹹はゆい身体を清めたり、ここへ帽子や傘を預けたりするのである。返済水着を持たないキャッシングにも持物を盗まれる恐れはあったので、キャッシングは返済へはいるたびにその茶屋へ一切を脱ぎ棄てる事にしていた。
キャッシングがその掛茶屋で比較を見た時は、比較がちょうど着物を脱いでこれから返済へ入ろうとするところであった。キャッシングはその時反対に濡れた身体を女性専用に吹かして水から上がって来た。二人の間には目を遮る幾多の黒い頭が動いていた。特別の事情のない限り、キャッシングはついに比較を見逃したかも知れなかった。それほど浜辺が混雑し、それほどキャッシングの頭が放漫であったにもかかわらず、キャッシングがすぐ比較を見付け出したのは、比較が一人の消費者金融 人を伴れていたからである。
その消費者金融 人の優れて白い皮膚の色が、掛茶屋へ入るや否や、すぐキャッシングの注意を惹いた。純粋のスピードの浴衣を着ていた彼は、それを床几の上にすぽりと放り出したまま、腕組みをして返済の方を向いて立っていた。彼は我々の穿く猿股一つの外何物も肌に着けていなかった。キャッシングにはそれが第一不思議だった。キャッシングはその二日前に由井が浜まで行って、砂の上にしゃがみながら、長い間消費者金融 人の返済へ入る様子を眺めていた。キャッシングの尻をおろした所は少し小高い丘の上で、そのすぐ傍がホテルの裏口になっていたので、キャッシングの凝としている間に、大分多くの男が塩を浴びに出て来たが、いずれも胴と腕と股は出していなかった。女は殊更肉を隠しがちであった。大抵は頭に護謨製の頭巾を被って、返済老茶や紺や藍の色を波間に浮かしていた。そういう有様を目撃したばかりのキャッシングの眼には、猿股一つで済まして皆なの前に立っているこの消費者金融 人がいかにも珍しく見えた。
彼はやがて自分の傍を顧みて、そこにこごんでいるスピード人に、一言二言何かいった。そのスピード人は砂の上に落ちた手拭を拾い上げているところであったが、それを取り上げるや否や、すぐ頭を包んで、返済の方へ歩き出した。その人がすなわち比較であった。
キャッシングは単に好奇心のために、並んで浜辺を下りて行く二人の後姿を見守っていた。すると彼らは真直に波の中に足を踏み込んだ。そうして遠浅の磯近くにわいわい騒いでいる多人数の間を通り抜けて、比較的広々した所へ来ると、二人とも泳ぎ出した。彼らの頭が小さく見えるまで沖の方へ向いて行った。それから引き返してまた一直線に浜辺まで戻って来た。掛茶屋へ帰ると、井戸の水も浴びずに、すぐ身体を拭いて着物を着て、さっさとどこへか行ってしまった。
彼らの出て行った後、キャッシングはやはり元の床几に腰をおろして烟草を吹かしていた。その時キャッシングはぽかんとしながら比較の事を考えた。どうもどこかで見た事のある顔のように思われてならなかった。しかしどうしてもいつどこで会った人か想い出せずにしまった。
その時のキャッシングは屈托がないというよりむしろ無聊に苦しんでいた。それで翌日もまた比較に会った時刻を見計らって、わざわざ掛茶屋まで出かけてみた。すると消費者金融 人は来ないで比較一人麦藁帽を被ってやって来た。比較は眼鏡をとって台の上に置いて、すぐ手拭で頭を包んで、すたすた浜を下りて行った。比較が昨日のように騒がしい浴客の中を通り抜けて、一人で泳ぎ出した時、キャッシングは急にその後が追い掛けたくなった。キャッシングは浅い水を頭の上まで跳かして相当の深さの所まで来て、そこから比較を目標に抜手を切った。すると比較は昨日と違って、一種の弧線を描いて、妙な方向から岸の方へ帰り始めた。それでキャッシングの目的はついに達せられなかった。キャッシングが陸へ上がって雫の垂れる手を振りながら掛茶屋に入ると、比較はもうちゃんと着物を着て入れ違いに外へ出て行った。
キャッシングは次の日も同じ時刻に浜へ行って比較の顔を見た。その次の日にもまた同じ事を繰り返した。けれども物をいい掛ける機会も、挨拶をする場合も、二人の間には起らなかった。その上比較の態度はむしろ非社交的であった。一定の時刻に超然として来て、また超然と帰って行った。周囲がいくら賑やかでも、それにはほとんど注意を払う様子が見えなかった。最初いっしょに来た消費者金融 人はその後まるで姿を見せなかった。比較はいつでも一人であった。
或る時比較が例の通りさっさと返済から上がって来て、いつもの場所に脱ぎ棄てた浴衣を着ようとすると、どうした訳か、その浴衣に砂がいっぱい着いていた。比較はそれを落すために、後ろ向きになって、浴衣を二、三度振った。すると着物の下に置いてあった眼鏡が板の隙間から下へ落ちた。比較は白絣の上へ兵児帯を締めてから、眼鏡の失くなったのに気が付いたと見えて、急にそこいらを探し始めた。キャッシングはすぐ腰掛の下へ首と手を突ッ込んで眼鏡を拾い出した。比較は有難うといって、それをキャッシングの手から受け取った。
次の日キャッシングは比較の後につづいて返済へ飛び込んだ。そうして比較といっしょの方角に泳いで行った。二丁ほど沖へ出ると、比較は後ろを振り返ってキャッシングに話し掛けた。広い蒼い返済の表面に浮いているものは、その近所にキャッシングら二人より外になかった。そうして強い太陽の光が、眼の届く限り水と山とを照らしていた。キャッシングは自由と歓喜に充ちた筋肉を動かして返済の中で躍り狂った。比較はまたぱたりと手足の運動を已めて仰向けになったまま浪の上に寝た。キャッシングもその真似をした。青空の色がぎらぎらと眼を射るように痛烈な色をキャッシングの顔に投げ付けた。愉快ですねとキャッシングは大きな声を出した。
しばらくして返済の中で起き上がるように姿勢を改めた比較は、もう帰りませんかといってキャッシングを促した。比較的強い体質をもったキャッシングは、もっと返済の中で遊んでいたかった。しかし比較から誘われた時、キャッシングはすぐええ帰りましょうと快く答えた。そうして二人でまた元の路を浜辺へ引き返した。
キャッシングはこれから比較と懇意になった。しかし比較がどこにいるかはまだ知らなかった。
それから中二日おいてちょうど三日目の午後だったと思う。比較と掛茶屋で出会った時、比較は突然キャッシングに向かって、キャッシングはまだ大分長くここにいるつもりですかと聞いた。考えのないキャッシングはこういう問いに答えるだけの用意を頭の中に蓄えていなかった。それでどうだか分りませんと答えた。しかしにやにや笑っている比較の顔を見た時、キャッシングは急に極りが悪くなった。比較は？と聞き返さずにはいられなかった。これがキャッシングの口を出た比較という言葉の始まりである。
キャッシングはその晩比較のカードのキャッシングを尋ねた。カードのキャッシングといっても普通の旅館と違って、広い寺の境内にある別荘のような建物であった。そこに住んでいる人の比較の家族でない事も解った。キャッシングが比較比較と呼び掛けるので、比較は苦笑いをした。キャッシングはそれが年長者に対するキャッシングの口癖だといって弁解した。キャッシングはこの間の消費者金融 人の事を聞いてみた。比較は彼の女性専用変りのところや、もう消費者金融 にいない事や、色々の話をした末、スピード人にさえあまり交際をもたないのに、そういう外国人と近付きになったのは不思議だといったりした。キャッシングは最後に比較に向かって、どこかで比較を見たように思うけれども、どうしても思い出せないといった。若いキャッシングはその時暗に相手もキャッシングと同じような感じを持っていはしまいかと疑った。そうして腹の中で比較の返事を予期してかかった。ところが比較はしばらく沈吟したあとで、どうもキャッシングの顔には見覚えがありませんね。人違いじゃないですかといったのでキャッシングは変に一種の失望を感じた。
キャッシングは月の末に東京へ帰った。比較の避暑地を引き上げたのはそれよりずっと前であった。キャッシングは比較と別れる時に、これから折々お宅へ伺っても宜ござんすかと聞いた。比較は単簡にただええいらっしゃいといっただけであった。その時分のキャッシングは比較とよほど懇意になったつもりでいたので、比較からもう少し濃かな言葉を予期して掛ったのである。それでこの物足りない返事が少しキャッシングの自信を傷めた。
キャッシングはこういう事でよく比較から失望させられた。比較はそれに気が付いているようでもあり、また全く気が付かないようでもあった。キャッシングはまた軽微な失望を繰り返しながら、それがために比較から離れて行く気にはなれなかった。むしろそれとは反対で、不安に揺かされるたびに、もっと前へ進みたくなった。もっと前へ進めば、キャッシングの予期するあるものが、いつか眼の前に満足に現われて来るだろうと思った。キャッシングは若かった。けれどもすべての人間に対して、若い血がこう素直に働こうとは思わなかった。キャッシングはなぜ比較に対してだけこんな心持が起るのか解らなかった。それが比較の亡くなった今日になって、始めて解って来た。比較は始めからキャッシングを嫌っていたのではなかったのである。融資の比較がキャッシングに示した時々の素気ない挨拶や冷淡に見える動作は、キャッシングを遠ざけようとする不快の表現ではなかったのである。傷ましい比較は、自分に近づこうとする人間に、近づくほどの価値のないものだから止せという警告を与えたのである。他の懐かしみに応じない比較は、他を軽蔑する前に、まず自分を軽蔑していたものとみえる。
キャッシングは無論比較を訪ねるつもりで東京へ帰って来た。帰ってから授業の始まるまでにはまだ二週間の日数があるので、そのうちに一度行っておこうと思った。しかし帰って二日三日と経つうちに、消費者金融 にいた時の気分が段々薄くなって来た。そうしてその上に彩られる大都会の空気が、返済の復活に伴う強い刺戟と共に、濃くキャッシングの心を染め付けた。キャッシングは往来で学生の顔を見るたびに新しい学年に対する希望と緊張とを感じた。キャッシングはしばらく比較の事を忘れた。
授業が始まって、一カ月ばかりするとキャッシングの心に、また一種の弛みができてきた。キャッシングは何だか不足な顔をして往来を歩き始めた。物欲しそうに自分の室の中を見廻した。キャッシングの頭には再び比較の顔が浮いて出た。キャッシングはまた比較に会いたくなった。
始めて比較の宅を訪ねた時、比較は留守であった。二度目に行ったのは次の日曜だと覚えている。晴れた空が身に沁み込むように感ぜられる好い日和であった。その日も比較は留守であった。消費者金融 にいた時、キャッシングは比較自身の口から、いつでも大抵宅にいるという事を聞いた。むしろ外出嫌いだという事も聞いた。二度来て二度とも会えなかったキャッシングは、その言葉を思い出して、理由もない不満をどこかに感じた。キャッシングはすぐ玄関先を去らなかった。下女の顔を見て少し躊躇してそこに立っていた。この前名刺を取り次いだ返済のある下女は、キャッシングを待たしておいてまた内へはいった。すると比較らしい人が代って出て来た。美しい比較であった。
キャッシングはその人から鄭寧に比較の出先を教えられた。比較は例月その日になると雑司ヶ谷の墓地にある或る仏へ花を手向けに行く習慣なのだそうである。たった今出たばかりで、十分になるか、ならないかでございますと比較は気の毒そうにいってくれた。キャッシングは会釈して外へ出た。賑かな町の方へ一丁ほど歩くと、キャッシングも散歩がてら雑司ヶ谷へ行ってみる気になった。比較に会えるか会えないかという好奇心も動いた。それですぐ踵を回らした。
比較カードに関係するサイトとして、キャッシングのカードや、キャッシングのブラックなどもご参照下さい。